あの日………1997.11.16(Sun):決戦(延長後半)

「おいおい、ちゃうやろ!」
ピッチに向かって突っ込みを入れていた。
どちらが蹴るべきだったか覚えていないのだが、
延長前半と同じチームがキックオフしたので、突っ込みを入れたのは覚えている。


相手の足は完全に止まっていた。
だから、
「この15分で決めてくれ。PKはゴメンだ。たぶん心臓が止まる。。。」
とにかく、そんな想いで運命の延長後半を迎えた。


もう延長後半も半分を過ぎていたと思う。
城と相手キーパー・アビドザデが交錯し、二人ともピッチに倒れ込んでいた。
とにかく城の状態が気掛かりだった。
普通ならトレーナーが
ベンチに向かって大きな丸印を出したり、
ダメならバツ印を出したりするが、それすらない。
交代枠を使い切りPKも現実味を帯びてきた中、
城がOUTとなると日本には大きな痛手だった。


「トレーナー、どっちじゃい!」「城、立ち上がれ!たのむぅ〜。」


トレーナーが何やらベンチにサインを出したようだが、
観客席上段にいた私には、どのようなサインか分からなかった。
なんとなく丸を出したように思えたが…。。。


しばらくすると、城が立ち上がりピッチに戻っていく。
トレーナーもベンチへ小走りで戻っていく。
「ふ〜、やれやれ^^」


相手キーパー・アビドザデもほどなく立ち上がるが、
どちらかの手を痛めているのが、その後のプレーで分かった。
それまで、ずる賢く時間稼ぎを繰り返し、憎らしかったアビドザデ。
しかし、城と交錯後のプレーは痛々しく少し同情していた。
「怪我なくベストで最後までやらせたかった。。。」


「しかし、どちらにしても勝つのは我々だ。情けは無用。」






左サイドを駆け上がるヒデ。
イランDFは全く応対できていない。
「うてっ!」
ヒデの放ったシュートはアビドザデにセーブされるが、ボールが中央にコロコロと転がっていく。
「貴方が決めて下さい。」ボールにそのような意志を感じた。
私は立ち上がり、その時を迎えようと、目に焼き付けようと、そのボールの行方を見守った。
そこに居たのは岡野。。。野人、岡野だった。


岡野はなぜか中途半端に滑り込んでボールを流し込んだ。
コロコロとゴールに吸い込まれようとするボール。
「もう、待てない。夢にまで見たW杯。W杯に日本が行けるんだ!」


ボールがゴールの中に吸い込まれた。
間違いなく吸い込まれた。
「やったぁ!!!よっしゃぁ!!!」






W杯史上初、ゴールデンゴールで出場を決めたのは、その発祥地、日本であった。






ジョホールバルの歓喜 - Wikipedia